ねんどうな人たち。インタビュー

粘土造形を歯科技工士の採用に導入 創造性やセンスをチェック

代表取締役 鷲巣 祐介 さん

株式会社バイテック・グローバル・ジャパン 代表取締役 1997年 東京大学 工学部 化学生命工学科卒業。同年株式会社リクルート入社。通信事業の営業を経た後、大学の技術を企業にライセンスをする技術移転事業に従事。当該事業で入れ歯の技術と出会い、2004年同社退職、株式会社バイテック・グローバル・ジャパンを創業。

「入れ歯をアタリマエに」という理念を掲げ、独自技術による入れ歯ブランド「コンフォート」などを提供している、株式会社バイテック・グローバル・ジャパン。同社では、2023年度の歯科技工士の新卒採用の実技試験の一環として、合同会社粘道の協力のもと、粘土造形を取り入れました。そこで、その狙いや経緯と成果について、代表取締役の鷲巣祐介さん、および採用担当の人事総務ユニット大塚茉衣子さん、歯科技工士の生産グループリーダーの後藤竜馬さんに話を伺いました。

ミッションは「世界中の入れ歯で悩む人々へ噛める入れ歯を提供する」

――まず、御社の事業内容をお教えください。

鷲巣 「世界中の入れ歯で悩む人々へ噛める入れ歯を提供する」をミッションとして、入れ歯に関連するコンフォート事業、ハイライフ事業、教育事業を展開しています。

主力のコンフォート事業では、当社の独自技術によって入れ歯の歯茎に当たる部分を柔らかいシリコーン樹脂でコーティングし、その柔らかさによってグッと強く噛み締めても痛くない入れ歯「コンフォート」を実現しています。ハイライフ事業では国内最大の入れ歯専門歯科グループの運営を、教育事業では歯科医師の入れ歯治療技術向上のための教育コンテンツを国内外に提供をしています。

実技試験で“ガンプラ”づくりを導入

――御社が「粘土採用」を行われた経緯や背景についてお教えください。

鷲巣 当社では、2009年から歯科技工士の新卒採用の実技試験において“ガンプラ”(『機動戦士ガンダム』のプラモデル)づくりを取り入れました。この経緯からご説明します。

 それまでの実技試験では、歯肉形成・人工歯排列という入れ歯づくりの技能試験を主に行っていたわけですが、専門学校2年生レベルのスキルでは手先の器用さがわかる程度で、何か物足りなさを感じていたのです。

そんな時にテレビ番組で、NASAにも製品を提供している世界的な光学機器メーカーが「焼き魚を食べさせる」という採用を行っていることを知りました。焼き魚の食べ方で、手先の器用さだけでなく、几帳面さなどの性格面もわかるというのです。なるほど、これは面白いと感じて当社も何かやろうと思った時、その年が『ガンダム』登場の30周年でした。そこで、話題づくりやPR効果も狙って、『ガンプラ』づくりを実技試験に取り入れることにしたのです。しかし、プラモデルはすでに形ができているものを組み立てるだけ。そこで、3色の絵具で自由に着色させ、手先の器用さや作業の丁寧さを見ることにしました。狙い通り、毎年のようにマスコミに取り上げられました。

これを10年近く続けましたが、『ガンプラ』づくりにも物足りなさを感じるようになったのです。器用さや丁寧さはわかっても、ものづくりのセンスや創造性まではわからなかったからです。

理論だけでなく“職人技”が必要

――歯科技工士に、ものづくりのセンスや創造性が必要なのですか?

鷲巣 はい。入れ歯づくりは理論がベースにあり、理論だけである程度の製品をつくることはできます。しかし、人の口の中は千差万別で、装着した場合の嚙み合わせであったり、装着する方のあごの形状、口の動きといったことを考えると、「ここはこうしたほうがいい」といった個別の工夫が必要になるのです。つまり、理論をベースにしながら個別の工夫をしたほうがいい場合が多くある。そこがまさに職人技の部分で、センスや創造性が問われるところなのです。つまり、お客様満足の上で非常に重要な資質であると言えます。

――なるほど。そこで、粘土造形に着目したわけですね。

鷲巣 センスや創造性も見ることができる何かいい方法はないかと思っていた2020年の秋頃、たまたま以前の勤務先が同じだった粘道の大野さんの活動を知りました。そこで、さっそく粘土造形を試してみることにしたんです。

入社後の姿がイメージできる

――いかがでしたか?

鷲巣 まず、ベテランの歯科技工士にやってもらいました。手先の器用さはもちろんですが、取り組み方の違いが如実に表れたのです。お題は「カレーライスをつくる」だったのですが、ある者はひたすらご飯粒をつくり、ある者はそそくさとカレーをつくり上げてお題にないビールジョッキをつくったり(笑)。これはいいと思いましたね。

大塚 次に若手にもやってもらいましたが、普段からよく質問する人は、粘土造形でも人の作業をよく観察したり質問していました。また、色出しにこだわって何度も試作する人、常に片付けながら作業をする人、最終形を考えてなかなか作業に着手できない人、といったように、普段の入れ歯づくりの作業とリンクするような性格が表れたのです。そこで、この粘土造形を新卒の実技試験に取り入れることで、入社後の姿をイメージできるのではないかと考えました。

新卒はポテンシャルを見る

――2023年度の実技試験に粘土造形を初めて導入されましたが、いかがでしたか?

後藤 中途採用の実技試験の場合は即戦力としての技量を見ますが、新卒の場合は器用さやセンスのほかに、集中力や熱量などのポテンシャルを見ます。最終的な作品の出来映えよりも作業中の姿勢を重視し、時間内に完成できていなくてもよしとしました。そういったテクニックや生産管理的なスキルは後で教えればカバーできるからです。ここでは、持ち前の姿勢や性格、センスを見ることに徹しました。

 結果的に数名の合格者を出しました。もちろん、粘土造形だけでなく入れ歯づくりの実技試験や面接なども併せての評価ですが、みなさん粘土造形においても光るものがありました。

ある方は、お題に対して悩みなかなか作業にかからず、そこに悔しい気持ちも表れて前向きに苦しんでいる印象がありました。結果的に完成させることができませんでしたが、納期よりもいかにいいものをつくるかを考える職人肌的な面が伺え、そこを評価しました。

また別の方は、段取りよく取り組み、道具も上手に使ってイキイキとテンポよくつくっていました。コミュニケーション能力も感じさせましたね。

 一方で受験者の中には、ルールを理解しきれていなかったのか、テーマと異なる作品を作っている方もいましたが、わからなければきちんと聞いて欲しかったと思いました。

モノづくりがどれだけ好きか

――粘土造形でそこまで測ることができたわけですね。

鷲巣 一番良かったと思っているのは、モノづくりがどれだけ好きなのか、楽しみながらやれているのかといった根っ子の部分がわかったことです。この仕事はものづくりが好きでないと続かないと思います。好きなら「もっとうまくなろう」と自ら努力するでしょう。ですから試験終了後に「楽しかったですか?」と聞きましたが、やっている最中の動作や表情でわかりますよね。

――今後の課題はどういったことでしょうか?

鷲巣 粘土造形で被験者のどういう要素をどのように判定するかといった基準の言語化、明確化です。今回も粘道さんと相談してチェックシートをつくりましたが、これをより洗練させていきたいと思っています。

大塚 そうすることによって、総合職の採用においても発展させて活用できると思っています。

――ありがとうございました。

鷲巣 祐介 Yusuke Washizu

株式会社バイテック・グローバル・ジャパン 代表取締役
1997年 東京大学 工学部 化学生命工学科卒業。同年株式会社リクルート入社。通信事業の営業を経た後、大学の技術を企業にライセンスをする技術移転事業に従事。当該事業で入れ歯の技術と出会い、2004年同社退職、株式会社バイテック・グローバル・ジャパンを創業。代表取締役に就任。

株式会社バイテック・グローバル・ジャパン Webサイト
https://bitecglobal.jp