ねんどうな人たち。インタビュー

粘土は、自分の不調を治してくれるセラピー

林 愛実

千葉県習志野市出身。 フルート奏者。 モデルとしての活動や自ら立ち上げた子供のためのボランティア団体「みんなのパーク」 などの活動も積極的に行っている。

フルート奏者の林愛実さんは、年間数百ステージもの演奏をこなす合い間に、粘土細工を楽しむ時間を大切にしているといいます。フルート演奏でスランプに陥った時など、何も考えず感じるままに粘土細工をすると、自分を整えることができるのだとか。そんな林さんに、フルート奏者になった経緯や、粘土の魅力などについて伺いました。

養護学校で始めたリコーダーが原点

――林さんがフルート奏者を目指した経緯からお教えください。

 小学校2年生の時に紫斑病に罹ってしまいました。血管がもろくなる病気で、血管が集まる腎臓にダメージを与えてその後腎炎が発症したのです。絶対安静が必要な状態で、長期入院が決まりました。そこで、習志野市の小学校から病院内の養護学校に転校となり、結局2年近くをそこで過ごしました。

 入院先の養護学校でランドセルを開けた時、入院する前に配られた教科書と、音楽の授業で使うリコーダーが入っていました。養護学校では、それぞれの子供の状態に合わせて好きなことが学べたのですが、私は音楽の先生からリコーダーを教わることにしました。家には母親が趣味で弾くピアノがあって、少々の頃から弾いて遊んでいたので、音楽に関心があったからかもしれません。

――そのリコーダーに夢中になったのですね?

 おもちゃ替わりに、一日中吹いていました(笑)。好きだったスタジオジブリのアニメの主題歌とか、テレビから流れてくる曲とか。流れてくるその場で曲に合わせて吹けるようになると、周りのお友達や先生方、ドクター、看護師さんが「すごい!」って。そもそも吹くのが楽しい上に喜ばれて、すっかり味を占めました(笑)。走ったらダメ、何かを食べたらダメ、と言われる生活の中で、そのことが自分の救いになったのです。体の調子がいい時に、お友達の部屋に遊びに行って一緒に吹いたりもして、コミュニケーションツールにもしていたと思います。ほかにできることもなく、その時すでに「将来はリコーダーのプロになる!」と決めました。

母親の勧めでフルートを習い始める

――そこが原点なのですね。

 4年生になった頃には薬が効いて数値が安定し、元の習志野の小学校に戻れました。でも体育の時間は見学で、昼休みに友達とドッヂボールもできません。勉強もかなり遅れていました。給食も塩分の濃いものは残さなくてはいけません。授業に疲れたら保健室でボーっとしてましたし、2週間ごとに長時間の検査もあって、次第に周囲から浮くようになってしまったのです。辛くなって、学校に行けなくなりました。「もういいや……」って。それで、家で1人でリコーダーの練習をしたのです。

プロの先生に教わろうと思って親に探してもらったのですが、希少なリコーダーのプロは周辺には見つかりませんでした。すると母が「隣の町にフルートの先生ならいるよ」と教えてくれたんです。病気を治すことを頑張る約束で楽器を買ってもらい、レッスンに通うようになりました。フルートとの出合いはそんな偶然でしたね。

――そのフルートにも夢中になった。

 はい。とても楽しくて。すると、介護施設で働いていた母が「家にいるのなら施設に来て、おじいちゃん、おばあちゃんに吹いて見せてよ」って呼んでくれたんです。初めて人前で演奏しましたが、とっても喜ばれて。「人前で演奏するのは楽しい!」と感じ、ますます夢中になりました。そういった経験が何度かあって自信に繋がり、また学校に通えるようになったのです。 学校の先生が、10歳になった子供を集めた2分の1の成人式会場で演奏させてくれたり、人前でフルートが吹ける機会を見つけてくれました。とてもありがたかったですね。

フルートの国際コンクールに入賞

――中学、高校とフルートを続け、音楽大学と大学院までフルートを専攻されましたね。国際コンクールにも入賞されたと伺いました。

 大学時代にウィーン国立音楽大学に短期留学した際、現地の国際コンクールに出場しました。言葉がわからなかったので、先生から「行って●●を演奏しなさい」と言われるがままに会場に行ったのですが、それがちゃんとしたコンクールとは知らず(笑)。でも観衆からいい反応をもらえ、結果的に入賞することができました。

――その後、プロフェッショナルのフルート奏者として、年間数百ステージをこなしているそうですね。どんなスタイルで演奏されているのですか?

 今はコロナでガクッと減ってしまいましたが、コロナ前までは300ステージぐらい演奏していました。1日5ステージという日もありましたので。スタイルとしては、ソロのほか、ピアノやほかの楽器とのアンサンブルが多いです。曲目は、クラシックからジャズ、ポップスまで幅広く選曲しています。

子供に興味関心のきっかけを提供

――演奏活動の傍ら、ボランティア活動もされていますね。

 「みんなのパーク」という、親子向けの体験イベントを年間10回ほど開催しています。私が演奏活動などで知り合ったダンサーやシェフ、柔道家、ピアニストといったプロフェッショナルに講師として参加してもらい、子供に体験してもらって自分の興味関心を広げてもらうことが狙いです。もちろんフルートやリコーダーの体験教室もしています。プロが使う楽器や道具に触れてもらうと、子供の目が輝くんですよ!

 自分がそうであったように、何か好きなものがあれば、どんな境遇にあっても救われることがあるのではないか、と。そんなきっかけをちょっぴりでも提供できたらいいな、との思いでやっています。

――その林さんが、粘土細工をされるようになった経緯とは?

 子供の頃から何かをつくって遊ぶのが大好きで、そのまま大人になった、という感じです。油絵とか、壁に漆喰を塗るのが楽しいんですが(笑)、4年ぐらい前に好きな手芸品店のユザワヤさんに絵の具を買いに行った時、隣りにカラフルな粘土が置いてあったんです。自分の子供の頃使ったのと違う!と思って思わず買っちゃいました。それで粘土細工を始めたら、まんまとハマった、という感じです。

粘土でデトックス&リフレッシュ

――粘土細工の魅力とは、どういったことでしょうか?

 フルート演奏でスランプに陥った時など、いろんなものが見えなくなって負の連鎖状態になってしまうんです。そんな時に粘土を取り出して、何も考えず手だけを動かし、感じたままの何かをつくるんですね。人から見られるとか、評価とか、余計なことは一切考えずただ自分の感覚に任せて手を動かす。空白だけど濃厚な時間という感じで。すると、嫌なモノが粘土にくっついてデトックスされるみたいになって、リフレッシュできるんです。マイナスな感情を乗せても、つくったものが可愛いければいいか、って(笑)。それでフルートを吹くと、スランプから立ち直れている時が多いんです。本当の自分を取り戻せているとでもいいますか。私にとって粘土にはそういう魔法がありますね。一種のセラピーかもしれません。

――林さんには、「粘道」と合同で「アートな夏休み」という親子向けのイベントに出演いただきました。ご感想をお聞かせください。

 子供たちにとってこのイベントは、夏休みの小さな思い出に過ぎないかもしれません。ですが“見る”こと、“聴く”こと、“触る”こと、“作る”こと、“褒められる”こと……そんなたくさんの要素が短時間に詰まっている「アートな夏休み」の経験は、いつか子供たちの役に立つ日が来ることを私は知っています。そもそも私がこの2つのコンテンツを経験することで、人生が豊かになっている張本人ですから(笑)。

同じ志をお持ちの粘道の大野さんと一緒に、短時間ではありましたが、心を込めて準備をしました。当日は、子供たちの楽しそうな姿、集中している様子、エネルギーに溢れた作品の数々を見て大成功だったと思っています。企画運営からこのイベントに携わることができたのは本当にラッキーなことです。参加してくださった皆様、ご協力いただきました企業の皆様にお礼申し上げます。今後も知識を増やし、より良いイベントに進化させていきます。そのためにも、私には演奏する時間のほかに、粘土を触る時間が必要ですね(笑)。

――どうもありがとうございました。

林 愛実 Aimi Hayashi

千葉県習志野市出身。
国立音楽大学付属高等学校を経て、国立音楽大学演奏学科フルート専攻卒業、及び弦管打楽器ソリスト・コース修了。洗足学園音楽大学院管楽器科首席卒業。
ウィーン国立音楽大学のセミナーを受講し推薦を受けDICHLERコンクールに出場 3位。ディプロマを取得。卒業時に大学推薦にてフルート協会主催フルートデビューリサイタルに出演。BS-TBS「日本名曲アルバム」に出演 。BSフジ「アートな夜!」に出演。ソニー・ミュージックエンタテインメント主催CLASSICAL STARSオーディション優秀賞受賞。
ジャンルレスなレパートリーで年間200回を超えるステージを行う他、ファッションショーでのパフォーマンスや卓話講師、ドラマ、アニメ、ゲーム音楽等のレコーディングを務めている。また世界三大ミスコンテストのミスワールドジャパン2019にてファイナリストに選出されTOP6、タレント部門1位、マルチメディア部門2位を受賞。
モデルとしての活動や自ら立ち上げた子供のためのボランティア団体「みんなのパーク」 などの活動も積極的に行っている。
現在、ホテル櫂会アンバサダー、習志野ソーセージアンバサダーを務める他、クラシック音楽専門のインターネットラジオ「OTTAVA」にて生放送番組のプレゼンターを担当。
2020年12月には東京シンフォニエッタと武満徹《系図》 で語り手として共演。NHK-FMで全国放送された。その愛らしさを湛えた声色と優艶 な語り口にも注目が集まっている。

ねんどうな人たち。

なぜ人は粘土に向かうのだろうか。子どもにかぎらず、成人までもが粘土に向かうようだ。
そこには「玩具としての粘土」だけではない何かがあるに違いない。
人は何を機に粘土を手にとり、何を求めて粘土と向き合うのか。
粘土に向かう人たちを”ねんどうな人たち” と勝手に名付け紹介していきたい。