ねんどうな人たち。インタビュー

日本文具大賞2020機能部門グランプリを受賞した「ホントの紙ねんど」

代表取締役社長 久保田 明男

東京都江戸川区出身/葛飾商業高等学校卒業/98年1月に相馬紙業(株)入社、2006年6月取締役営業部長(営業統括)、11年6月専務取締役、13年6月代表取締役社長/趣味・健康法=釣り、サーフィン、ゴルフ/好きな言葉=有言実行

本当の紙100%を原料にした「ホントの紙ねんど」。市販されている一般的な紙粘土の主原料は炭酸カルシウムで、紙はほんのわずかしか含まれていないことから企画されたものです。完成品の紙粘土ではなく、材料を自分で混ぜ合わせてつくる理科の実験セットのような商品。紙ねんど自体をつくるプロセスから学べる教材として開発され、日本文具大賞2020機能部門グランプリを受賞しました。そこで、この「ホントの紙ねんど」をつくり出した株式会社相馬の代表取締役社長である久保田明男さんに、商品開発の経緯や特徴などについて伺いました。

「日本文具大賞グランプリ」など高い評価

――さっそくですが、「ホントの紙ねんど」とはどういう商品なのかご説明ください。

久保田 紙ねんどの材料となる1㎜程度の幅に細切りにした紙の「紙ねんどのもと」と、重曹、クエン酸、デンプンのり、および説明書をセットにした商品です。つくり方としては、「紙ねんどのもと」を水に入れ、1分程度浸してから重曹とクエン酸を投入して発泡させ、「紙ねんどのもと」を細かくちぎってこねれば出来上がります。あとは、一般的な紙粘土と同様に造形し、乾燥させた後に絵具で着彩したり、色紙を糊付けするなどして作品として仕上げるといった形です。

――「ホントの紙ねんど」という商品名に込めた意味とは?

久保田 実は、市販されている一般的な紙粘土の主原料は炭酸カルシウムで、紙はほんのわずかしか含まれていないんです。そこで、紙100%で紙ねんどができることを子どもたちに知ってほしいという思いから、実際に紙ねんどができるプロセスを学べるように原料をセットにした商品を企画して「ホントの紙ねんど」というネーミングにしました。

――こうした企画が高く評価され、「日本文具大賞2020機能部門グランプリ」や「キッズデザイン賞」を受賞されました。おめでとうございます。

久保田 ありがとうございます。日本文具大賞とは、その年に発売された文具の中から、機能面やデザイン面で優れた文具に贈られる賞です。「親子共通の造形意識を創出するコミュニケーション遊具として期待される」「ものづくりを通して誰でも簡単に想像力を養える」といったポイントから高く評価されました。キッズデザイン賞は、すべての製品・空間・サービスが対象の顕彰制度で、「子どもたちが安全に暮らす」「子どもたちが感性や創造性豊かに育つ」「子どもを産み育てやすい社会をつくる」ための製品・空間・サービスであり、優れたものを選び、広く社会へ伝えることを目的としているものです。

ファンシーペーパーに強み

――では、御社の沿革やこの商品を企画した経緯についてお教えください。

久保田 当社は1964(昭和39)年4月にフシミ洋紙店として創業され、1969年4月に相馬紙業株式会社として法人化しました。当時から現在まで、主に印刷用の用紙を断裁し、印刷会社に納める商売をしています。しかしながら、インターネットが普及を始めると印刷需要が減少し、対策を迫られるようになりました。そこで打ち出したのが、ファンシーペーパーと呼ばれるカラフルで模様なども入った高級紙を強化すること。主に冊子の表紙などに用いられる付加価値の高いもので、数十種類と品揃えを豊富にしてあらゆるニーズにお応えできるようにしています。これを1枚からお届けするという、どこもやっていなかったサービスも打ち出しています。

 また、紙だけでなく、印刷や製本までをトータルで受注し、当社がコーディネートするワンストップサービスも行うようにしました。制作したい印刷物の目的によって最適な用紙をご提案するとともに、選定した用紙に相応しい印刷や製本ができるように手配します。これによって、お客様の負担を軽減するとともに最高の仕上がりで納品するというメリットを提供するものです。

自由にチャレンジできる風土での発想

――「ホントの紙ねんど」の企画は、そうした流れの一環ですね。

久保田 そのとおりです。先代社長は、自社オリジナルブランドの製品を出したいという夢を持っていました。そこで私は、かねてから社内に商品アイデアを求めていたのです。そうした中で、2017~18年頃、ある若手社員が思いつきました。世の中で売られている紙粘土は、実は紙がほとんど使われていないということを知ったことが契機となったわけです。社内でディスカッションし、これは面白いからぜひ商品化しようとGoサインを出しました。

 私は5代目の社長ですが、創業家の出身ではなくアパレル会社からの中途入社です。社長同士がゴルフ仲間という縁で、営業担当として当社に転じました。したがって、紙の業界は全く知らなかったことが既成概念に捉われることのない自由な発想に繋がったと思います。ファンシーペーパーにシフトしたのもそうです。また、先代社長も自由にチャレンジさせてくれました。「ホントの紙ねんど」のアイデアが出たのも、そんな社風が奏功したのだと思っています。

――商品開発はどのように進めたのでしょうか?

久保田 商品は、実際にその社員がいろいろな材料を一つ一つ試して試行錯誤を繰り返しながら2年がかりで開発しました。紙の細さは1㎜が最適といったことも割り出したのです。つまり、素人が一から開発したわけです。一方、商品開発やマーケティングを専門とするコンサルタントを招き、パッケージデザインやコンセプトづくりを進めました。重要なコンセプトとして、環境教育に使えるということがあります。そこで、パッケージにはできるだけプラスチックやビニールは使わず紙を使うようにしました。デンプンのりだけは紙袋が使えず残念ですが、リサイクル可能なプラスチック製の袋を使用しています。また、外箱は捨てられないように作品を乗せる台として使えるよう工夫もしています。

SNSマーケティングのノウハウを外販

――マーケティングや販売はどのようにされているのでしょうか?

久保田 商品としてリリースできたのは2020年6月で、この頃に開催される文具などの展示会のタイミングに合わせました。しかし、コロナ禍が始まっていて、当初計画していた学校ルートへの営業ができない状況でした。一方、全国の文具店にルートを持つ問屋さんに卸したり、商品のWebサイトをつくって直接販売もしています。そして、当初からFacebookのコーポレートアカウントを開設してSNSマーケティングも始めました。この時点ではさほど力を入れていなかったのですが、その後案内された日本文具大賞に応募しグランプリを受賞してからは、InstagramやTwitter、YouTubeにも広げて力を入れています。ここで蓄積したSNSマーケティングのノウハウを他社にも提供するコンサルティングサービスも新規事業として始めています。さらに、今後は作品コンテストもやっていこうと思っています。

――販売状況はいかがでしょうか?

久保田 保育園や個人のお客様などに年間5,000セットを販売しているというペースです。小学校の夏休みの自由研究を狙いましたが、コロナ禍もあってなかなか浸透していないという状況です。学校教材としての拡販がこれからの大きな課題ですね。幸い、2022年1月に地元江東区の「江東ブランド」に選出されました。こうしたことを足掛かりとして、区内企業とコラボレーションするなどして商品の認知度を広めていきたいと考えています。

安心・安全などの特長

――あらためて、「ホントの紙ねんど」の特長や魅力はどういったところにあるか、お考えをお聞かせください。

久保田 まずは安心・安全ということです。添加物などは一切使用していない自然の材料だけですので、子どもが間違って口に入れても大丈夫です。また、紙ねんどは乾けば軽く、白いので着彩や加工がしやすいという特長もあります。理科の実験のように物質が変容するプロセスを学ぶことができます。そして、紙の原料は間伐材を用いるなど、環境への意識づくりにも繋がると自負しています。

――ありがとうございました。

久保田 明男 Akio Kubota

株式会社相馬 代表取締役社長 東京都江戸川区出身/葛飾商業高等学校卒業/98年1月に相馬紙業(株)入社、2006年6月取締役営業部長(営業統括)、11年6月専務取締役、13年6月代表取締役社長/趣味・健康法=釣り、サーフィン、ゴルフ/好きな言葉=有言実行

株式会社相馬
https://www.souma-paper.co.jp
紙のコト
https://kaminokoto.tokyo

ねんどうな人たち。

なぜ人は粘土に向かうのだろうか。子どもにかぎらず、成人までもが粘土に向かうようだ。
そこには「玩具としての粘土」だけではない何かがあるに違いない。
人は何を機に粘土を手にとり、何を求めて粘土と向き合うのか。
粘土に向かう人たちを”ねんどうな人たち” と勝手に名付け紹介していきたい。