2023年2月、2名の新スタッフが揃って粘道にジョインしました。2人とも、東京藝術大学で彫刻を専攻したアーティスト。最強のスタッフを得て、粘道の活動はますます充実間違いなし。そこで、2人のこれまでの経歴と、粘道でどんな活動をしていきたいか、インタビューしました。
幼少期から図画工作が大好きで藝大へ
――まず、二人が藝大の彫刻科を目指した経緯から教えてください。
野村 両親がデザイナーで、私は物心がつくかつかないかの頃からお絵かきや工作が大好きでした。それが日常だったので、ごく自然と美術の道に進んだと思います。
藝大は、親に「日本で一番の大学は?」と聞いた時に教わって知り、それ以来「藝大に行きたい!」と思い込んできました。
高校2年の時に進路を決める際に、自分は立体の工作が好きだったので、工芸か彫刻かを考えました。陶芸や織物などの工芸は用途のある物で、どちらかというと手のひらサイズのものが多いと。一方、彫刻の学生の様子を見ると、大きなものを自由奔放に制作していたのです。そこで、彫刻科を選ぶことにしました。卒業後の進路などは考えていませんでしたね。
藝大の彫刻科は一学年20人ほどで倍率も高く、私は結果的に4浪しました。初回と4回目の時は私学も受験して合格しましたが、子供の頃からの強い思いと経済的な理由で、藝大への進学にこだわったという経緯です。
倉田 私も小さい頃からものづくりが大好きでした。と言っても、庭に穴を掘ったり、小屋を建てたりというスケールですが(笑)。両親が共働きで、祖父とよく過ごしたのですが、祖父が「穴掘りたい」「小屋建てたい」という私のわがままをよく聞いて手伝ってくれたんです。もちろん、学校でも図工が一番好きでした。
イラストもずっと描いていましたが、中学時代はデザイナーに憧れたんです。可愛い広告を見て影響を受けました。そこで高校3年の頃、美大受験の予備校に行ってデザイン科の勉強をし、初年度はデザイン科を受けました。
大学で知り合い意気投合
倉田 平面構成という実技試験では、絵具が混ざらないよう全色の筆を替えて慎重に制作しなければならないんですが、自分はガサツなところがあって色を混ぜてしまったのです。受験は不合格でした。その後、野外彫刻などで彫刻作品に触れ、改めて魅力を感じました。やはり自分は穴を掘ったり小屋を建てるほうが性に合っていると、彫刻科への転科を決めたんです。そうして臨んだ藝大の受験、彫刻科としては初の受験で合格できました。
――二人は同じ2013年に藝大の彫刻科に入学し、友達になったわけですね。
野村 歳は私が3つ上ですが、倉田と気が合って意気投合しました。
――学生時代、二人で何か活動をしたのですか?
倉田 共同制作的な活動は何もしませんでしたが、よくツルんで遊びました。大学の古美術研究旅行で奈良に行った時、門限を破って夜中まで一頭の鹿を追いかけたり。
野村 その鹿は変な鳴き方をして面白かったんです。それに、頭にフンを載せていたせいか、仲間に嫌われている感じのところも面白かった(笑)。
倉田 先生から「夜中にどこに行ってたんだ!」って怒られて。
野村 そんなことばかりして遊んでたね。
倉田 面白いことをよく二人で楽しんでいたと思います。
学部を卒業、大学院に
――そんな充実した学生時代を過ごしてからの(笑)、卒業後の進路について教えてください。
野村 私は作家になると決めて、大学院の修士課程に進学しました。学部時代の4年間は基礎的な技術を学んだだけと感じていて、素材を何にするかなど作品の方向性もまだ定まっていなかったので、もう2年は探索や研究に取り組みたかったからです。
――修士課程を修了後は?
野村 ドイツの美大に彫刻家として活躍中の女性の先生がいて、憧れていたんです。作家になるのに日本しか知らないのも良くないかな、と思って留学しようと。そこで、ワーキングホリデーのビザを取得して受験したんですが、不合格でした。面接で、その先生に「ドイツで勉強する意味が感じられない」って突っ込まれて。自分も強く反論できませんでした。それで、1年間のワーキングホリデーがあったので、イタリアやベルギー、オランダなどの美術館巡りや、彫刻の素材にしていた大理石の採石場を見学したりして過ごしてから帰国しました。
――帰国後は?
野村 ユニークなプリンターを開発しているベンチャー企業でアルバイトしました。そのプリンターは、特殊なインクを使ったり、色々な素材にプリントすることができるんです。で、その会社には私のようなアート系やDJ、デザイナーなどの卵的な若者ばかりがアルバイトとして集まっていたんです。彼らと交流できてとっても刺激的でした。働く時間も自由に決めることができたのも良かったんです。
一般企業に就職しギャップを感じる
――倉田さんはどんな進路でしたか?
倉田 私の場合は、入学当時から映像制作にも関心を持っていて、卒業後にその道に進もうかと考えたんですが、どこか覚悟ができずに広報の仕事ができる建材メーカーに就職しました。久しぶりに美術とは縁のない世界に入って、それまでの言葉にしなくても伝え合えていたコミュニケーションが成立せず、言葉にしてはっきり伝えることやいろいろな人とうまく関係をつくることの重要性を再認識できたと思います。
4年間、広報の仕事を手掛け、商品案内などを制作するのにデザイン会社と関わることはありました。けれども、根っ子には「何か作りたい」といった欲求がずっとあって、家では絵を描いていました。そんなギャップが大きくなって、新しい一歩を踏み出したいと思うようになり、野村さんに相談したんです。そうしたら、「(アルバイトしている)ベンチャーに空きがある」って言われて。その後、面接を受け、採用が決まって建材会社を退職しました。
――二人はそのベンチャーで再会したわけですね。
倉田 そのとおりです。2022年の5月から一緒に働き始めました。
野村 ところが、2023年の2月、2人が所属していたベンチャーの部署がなくなるという話になったんです。そこで、人事担当者がアルバイト一人ひとりと面談して次の働き口の相談に乗ることになりました。私と倉田の専門は彫刻だということで、「粘道という会社があるけれど、どう?」と。後で知ったことですが、その人事担当者は大野さんの元同僚で、予め大野さんに採用枠があるかどうか確認していたんです。大野さんはちょうどシーガルズのヘッドコーチ就任が決まって粘道の活動を休止するか悩んでいた時で、そんな二人が来てくれるなら継続できるかもしれないと人事担当者に返事をしていたんです。
二人で粘道にジョイン
――そこで粘道に接点ができた。
野村 私は人事担当者から話を聞いて、すぐ粘道のホームページを調べて「面白そう!」と思いました。それで、倉田と一緒ならもっと面白いと思って、人事担当者に先回りして倉田にこの話を伝えたんです。絶対に引っ張り込もうと(笑)。
倉田 私も凄く面白そうに思いました。出身は三重県なんですが、「東京には面白い会社があるもんや」と。三重にこんな会社はなかったからです。
野村 それで、二人で早速大野さんと面接し、詳しい話を聞いてますます面白そうに感じて業務委託としてジョインすることにしました。
――では、粘道での活動内容について教えてください。
倉田 これまで大野さんが続けてきた、独自開発のカラフルな粘土でコミカルな顔などをつくる子供向けのワークショップという“型”があります。なので、私たちは別の切り口で新しいプログラムをやろうと決め、子供向けに紙粘土を木の板に張り付けて壁に飾れる作品をつくるワークショップを始めました。また、大人向けの「粘土バー」も引き継ぎましたが、ここでは「ランダムくじ引きアニマルズ」という新しいゲームを考案しました。“サウナに入る”“リス”など、動き×動物の組み合わせを参加者の方にくじを引いてもらって決め、それをテーマにした作品をつくるというものです。
野村 大野さんは、「社会人のチームビルディングなどに使えるかも」と喜んでくれています。
――二人は、これから粘道でどんな活動をしていきたいと考えていますか?
野村 大野さんは私たちがやりたいことをやってほしいと言ってくれています。私としては、元々自分が大好きなものづくりの楽しさを小学生ぐらいの子どもたちに伝えていきたいと思っています。子供たちが大人になった時に、プライベートで好きなことを続けていけるマインドづくりのお手伝いをしたいとの思いがあります。大人になって「これ、ちょっとつくってみたんだけど」って何か作品を見せられるのってすごくカッコいいと思うんです。そんな大人が増えるといいな、と。
――なるほど。
無心になれて気分が楽になる場所
野村 あと、悩みがたくさんあり、辛いことも多かったりする中高生が気軽に立ち寄ってものづくりができる場所もつくってみたいと思っています。「面白いお姉さんが粘土細工を教えてくれるんだけど、そこに行くと無心になれて気分が楽になる」などと言ってもらえるような場所です。
――それはいいですね! 倉田さんはいかがですか?
倉田 私も野村さんと同じで、今でも夜な夜な作品をつくる時間が宝物のように感じているものづくりの魅力を子供に伝えていきたいと思っています。子供の頃にワークショップで感じたものづくりの楽しさを、大人になっても忘れないようになってもらいたいな、と。
大人向けの「粘土バー」ももっと頻繁に開きたいんですが、集客が課題です。これを読んでいる皆さんにぜひ参加して頂きたいですね。
――二人の本職である作家活動としては、どんな予定がありますか?
野村 2023年10月に個展があり、現在(2023年8月)はその制作に集中しています。粘道30%、作品制作70%といった時間配分ですね。
10月に開催する個展で展示される作品。
タイトル:Living
制作年:2023
素材:スタイロフォーム、水性パテ、ウレタン塗料
倉田 私も実家のある三重で展示会を予定しているのと、作品のコンペがあってその準備に取り掛かっています。
最近制作している絵。
タイトル:光のライン
制作年:2023
素材:油彩、キャンバス
――では最後に、素材としての粘土の魅力についてのお考えをお話しください。
野村 石や金属、木のように取り扱いに専門知識が必要なわけではなく、誰でも簡単に扱えるところが最大の魅力だと思います。
倉田 素材として可塑性が豊かで造形しやすい点も優れていると思いますね。
――二人の活躍に期待しています。ありがとうございました。