連載#7 粘土遊びの発達 2歳児「反復練習してうまくなる」

粘土遊び」をしてもらうとき、わたしは、子どもたちが普段どおりにのびのび振る舞うことができるよう、ルールをつくり、園の先生たちにお願いしました。それは、(1)場所や時間、粘土の固さや量をつねに一定にする。(2)子どもの体に危険がないかぎり、口出しをしない。黙って見守る。もし子どもに「せんせい○○して」「どうしたらいいの?」などと言われたときはやさしく援助する。でもそれ以上の口出しや手出しをしない、介入しない、指導はしない。こういうと簡単なようですが、(2)がたいへん難しい。園の先生たちと話し合いをすると、「黙っていることがいちばん難しい。つい口を出してしまう」という感想がもっとも多いのです。

園の先生と立場は違いますが、わたしの場合は、透明人間のように子どもの中にすっと溶け込んでいくことが理想です。自由に動き回って、細かいところまで自分の目で直接観察できるからです。

ある保育園に通い始めて半年くらいたったときのこと。いつものようにビデオカメラや三脚など重い機材を両手いっぱいかかえて園の門を開けたとたん、園庭で遊んでいた子どもたちがいっせいに、「あっ、おだんごのオバサンだ!ねんどの日だ!」といいながら走ってきて荷物運びを手伝ってくれました。わたしが子どもたちに受け入れてもらえたと実感し、研究はきっとうまくいくと確信できた瞬間でした。

2歳になると、運動能力が発達し、手の動きも活発になってきます【写真1】。指を粘土のかたまりに突っ込むと「穴」があいて、手の平で転がすと「おだんご」形に、同じ方向に往復させると「ひも」形に、上からペタペタ叩くと「おせんべい」形になります。

まだ手の動きがぎごちないので、「デコボコだんご」「丸くないおせんべい」「不ぞろいのひも」ばかり。いくつも同じ形をつくって並べたりしますが【写真2】、これは手操作の反復練習です。言葉を覚え始めた子どもが一日中おしゃべりしていることがありますね。それと同じで反復練習をしているのです。

当然ながら個人差があって、うまくできない子どももいます。そういうときは友だちがつくる様子をじっと観察したり、先生に「つくって」と頼んだりしながら、やがて自分でつくることができるようになります。

このとき大切なのは、友だちや仲間、先生、親など自分を助け、応援してくれる他者の存在で、子どものやる気を引き出し、発達を促します。この3つの「子ども・粘土・第三者」を三項関係といいます。ですから、子どもが「できた、やった」と言ったら、「よくできたわね、いっぱい遊んだわね」と認めてほめて、ニッコリ微笑んであげてください。

「足」も積極的に使います【写真3】。粘土かたまりに足の指を突っ込む、足の爪や膝に貼りつける、かたまりに乗る、乗ったままじっとしている、乗ってとび跳ね、ペチャンコになったら丸めて、また乗ってとび跳ねて……遊び続けている。そういう姿を見ると、いま足裏から大地の力、土のパワーを吸い上げている、ガンバレ、強くなれ!と心の中で励ましたくなります。

粘土を顔につけたり【写真4】、頭にのせたり、腕や背中をこすったり、思い思いにかかわりながら終了。遊びおわったあとの2歳児は、やりたいことは全部やった、自分でちぎって丸めることができた!という成功体験、満足感で顔がキラキラと輝き、清々した表情をしています。

手や足で粘土に触れ、素材のやわらかさ、重さ、粘りぐあいを体で覚えながら、次の「つくる」段階へ発達していきます。

<メモ>
子どもが泣いているとき、抱いてあげると泣き止みますね。抱きしめられて、全身の触覚が刺激されると心が落ち着き、安心するのです。テレビ画面や現実の場面でも、災害や悲劇が起きたとき、涙あふれて言葉にならず抱き合う光景を見ることがあります。せっぱつまったとき思わず抱き合う。感覚の中でもっとも素朴な「触感覚」を総動員して相手を抱きしめ、存在を、無事を確認するのです(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感中、触覚がいちばん原始的なのだ)。触れ合うのは安心、安全のサイン。子どもをしっかり胸の中に抱き入れ、たくさん抱きしめて育てましょう。

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ねんど博士 中川 織江

北海道出身。大学で彫塑を学び、大学院で造形心理学、 京都大学霊長類研究所でチンパンジーの粘土遊びを研究し、博士課程後期修了。
文学博士

職歴は、芹沢銈介(人間国宝)染色工房、デザイン会社勤務を経て、複数の専門学校・大学・大学院で講師、客員教授として幼児造形や心理学を担当。また、10年以上、全国教育美術展の全国審査員をつとめる。同時に、粘土遊びの魅力と大切さを専門誌に連載。

著書に、一般向けの『粘土遊びの心理学』、専門家向け『粘土造形の心理学的・行動学的研究』がある。ともに風間書房から出版。
現在、幼児の造形作品集の出版をめざして準備中。