連載#2「究極の手 クレイモデラーをご存知ですか」

「粘土を扱う人・仕事」というと陶芸家や彫刻家をすぐに思い浮かべますが、「クレイモデラー」をご存知ですか?

デザインする人をデザイナーというように、モデル(模型)をつくる人をモデラ―といいます。クレイ(粘土)でつくるから「クレイモデラ―」です。

さまざまな工業製品、たとえば自動車会社では、コンピューターと手技のコラボで最新型の車を開発、つくっていきます。

「クレイモデラ―」は、粘土をこねて縮小サイズや実物大の模型車をつくります。デザイナーが、コンピューターで図面を引いていくうちにどうしてもわからない、迷ってしまう微妙なカーブやフォルムが生じてきます。

そういうとき、「クレイモデラ―」の出番です。粘土の模型を何回も何回も手でなでて触りながら土を盛ったり削ったり、つけ直したり。手の触覚を頼りに試行錯誤を繰り返していきます。コンピューターでわからない疑問や迷いを、粘土と手の触覚を使って解決していきます。それをフィードバックしながら新型ニューモデル車が完成します。

どんなに時代が進んでデジタル世界になっても万能ではありません。ヒトが乗る車やヒトが使う道具は、ヒトの感覚でしかわからないことが必ずあります。

それにしても「クレイモデラ―」の手の触感覚はすごい。どれくらいすごいか?

50年以上前にそれを調べた人がいます。体の「手、顔面、足指やかかと、腹、胸、肩、腕、太もも、ふくらはぎ、背中、肩」について、皮膚の感度を閾値という値であらわしました。結果は、手が1番で、顔面は2番でした。

手の皮膚感覚は、唇・ほっぺ・おでこ・鼻のそれより優れている!

では手のどこが敏感? 手の平より指のほうが敏感で、指のなかでも人差し指がもっとも鋭敏。つぎは中指、くすり指、小指、親指の順です。

手全体をくまなく使ってする粘土遊びは、すべての年齢の人にとって「究極の手遊び」ということが言えます。

ちなみに体全体の皮膚の敏感さは、先ほど書いた体の部位順です。手足など「体の末端」と「顔面」はとても敏感で、ふくらはぎや背中、肩など体の「背面」はどちらかというと鈍いのです。

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ねんど博士 中川 織江

北海道出身。大学で彫塑を学び、大学院で造形心理学、 京都大学霊長類研究所でチンパンジーの粘土遊びを研究し、博士課程後期修了。
文学博士

職歴は、芹沢銈介(人間国宝)染色工房、デザイン会社勤務を経て、複数の専門学校・大学・大学院で講師、客員教授として幼児造形や心理学を担当。また、10年以上、全国教育美術展の全国審査員をつとめる。同時に、粘土遊びの魅力と大切さを専門誌に連載。

著書に、一般向けの『粘土遊びの心理学』、専門家向け『粘土造形の心理学的・行動学的研究』がある。ともに風間書房から出版。
現在、幼児の造形作品集の出版をめざして準備中。