連載#17 「森を作りたい」

楽しく、子どもの「粘土遊び」にのめり込むうち、ふと、チンパンジーも粘土遊びをするにちがいない、と閃きました。チンパンジーはヒトにもっとも近い霊長類だからです。そう思ったのがきっかけで、約5年間、京都大学で、チンパンジーに粘土遊びをしてもらいました。5年間の研究が終った時、チンパンジーたちに何かお礼をしたいと思いついたのが植林です。

人類のルーツはアフリカにあります。チンパンジーの故郷もアフリカです。そのアフリカでは開発のために、森林がどんどん伐採されています。森が寸断され、チンパンジーたちは孤立し、今や、絶滅危惧種に指定されています。

イカン。アフリカにいるチンパンジーの命を守りたい。それが自分を守ることになる。森と森をつなぐため「緑の回廊」という植林活動があることを知ったわたしは、毎年、苗木をまとめて買うためのお金を寄与することに決めました。細くとも長く、をモットーに続けてきました。

ある日、わが家に宅急便が届き、開けると額入りの大きな写真が2枚あらわれました。それが下記です。
時の力のおそるべし、苗木が育って小さな森に。右端で男性が看板に手をかけて立っています。
そこには、フランス語で「オリエの森」と書かれていて、
「マダム・オリエナカガワ。ボッソウとニンバ山を結ぶ“緑の回廊”に尽くしてくれて感謝いたします。2018年1月1日」

寄付を始めてから20年こえていたのでした。
京都大学の森村成樹先生は、毎年アフリカへ行き、猛烈な日差しの中、もくもくと苗木を植え、管理し、ドローンを飛ばし、研究をしています。わたしに近況連絡もしてくれます。でも、新型コロナウィルスが世界中に広がり、森村さんはアフリカへ行くことができません。

先日、3年ぶりにようやく連絡がありました。
以下は森村さんからの報告です。許可をえて、一部ですがそのまま記載いたします。

「新型コロナによる渡航制限がようやく緩和されて、10月3日にボッソウ入りしました。2020年1月以来です。現地の研究所に新しい所長が来るなど、だいぶ状況が変わりました。とくに、ギニア政府からの財政支援によって、現地で自立的な植林活動が定着しつつあります。
「オリエの森」も一段と大きくなりました。
少し離れたところにある別の植林の森との距離がせばまってきて、将来つながるのではという期待が持てるようになりました。
今日、「緑の回廊」の木を切ろうとしている隣村の住人6人がエコガードに逮捕される事件がありました。通常では6か月間、刑務所に拘留される厳しい刑があるそうです。ところが新所長の采配で、各人に1ヘクタールずつ「緑の回廊」の土地を分担させて、3年間、草刈りをする勤労措置になったそうです。きちんと3年間働けば、そこは小さな森になると思います。なんとも爽やかな”大岡裁き”かと、頼もしく感じました。
10月20日にはボッソウを出て帰国し、来年の1月に再び訪れる予定です。今回の渡航でも面白いものがいろいろ見つかっています。しっかり結実したらご報告させていただきます。ギニアでの活動をご報告できるよう精進してまいります。」

木の種類は、アフリカの土に適した「ウアパカ・ポジェリ」。地元では「タピア」というそうな。粘土遊びが植林につながりました。「木は希望のキ」。粘土遊びも植林も長く続けていこうと思います。

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ねんど博士 中川 織江

北海道出身。大学で彫塑を学び、大学院で造形心理学、 京都大学霊長類研究所でチンパンジーの粘土遊びを研究し、博士課程後期修了。
文学博士

職歴は、芹沢銈介(人間国宝)染色工房、デザイン会社勤務を経て、複数の専門学校・大学・大学院で講師、客員教授として幼児造形や心理学を担当。また、10年以上、全国教育美術展の全国審査員をつとめる。同時に、粘土遊びの魅力と大切さを専門誌に連載。

著書に、一般向けの『粘土遊びの心理学』、専門家向け『粘土造形の心理学的・行動学的研究』がある。ともに風間書房から出版。
現在、幼児の造形作品集の出版をめざして準備中。