連載#12 わたしの「粘土遊び」実験のようす(2)

子どもたちが歓声を上げながら力いっぱい粘土に取り組んだあと、今度は、わたしたちが子どもたちの「作品」の撮影にとりかかります。
まず、「作品」を1つずつ板にのせてテラスへ運び出します。【写真1】はテラスに並べられた状態です。

粘土作品の撮影にはいくつか条件がありますが、かならず戸外の日陰でなくてはなりません。【写真2】はある日の撮影風景ですが、こんな感じです。園庭の日陰をさがして臨時の撮影場所をつくります。箱やテーブルを重ねてちょうどいい高さにして白いビニール布でおおい、白紙を乗せます。その前で、カメラマンがカメラを持って構えます。

わたしは、白紙の上に、作品を1つ置きます。するとカメラマンは作品全体をパチリ、アップにしてパチリ、立体だから向きを変えたり、回転させたりしながらパチリパチリ。【写真3】のように臨機応変に台に乗ることも。
カメラマンが「OK!」と言うと撮影終了のサインです。作品をテラスへ戻し、次の新しい作品を白紙の上へ置きます。またカメラマンがパチリパチリ。これを1つずつ繰り返して、すべての作品を撮っていきます。

いつも人懐っこい子どもたちですが、撮影場所へ近よってくることはありません。なぜなら子どもたちも次のスケジュールで大忙しで、粘土遊びが終わると給食タイム、食べ終わるとパジャマに着替えて、紙芝居やお話、絵本を読んでもらってから、お昼寝タイムに入ります。大賑わいの園が、急に静かにシーンとします。そおっと覗くと、園のホールいっぱいに寝ている子どもたちの姿は宝物そのものです。その間にも撮影は進み、シャッター音があたりに響いています。

大切な、先生たちとの話し合い

お昼寝タイムを利用して、時々、先生たちと話し合いの時間をもちます。【写真4】がそうですが、皆が足並みを揃えるチャンスでとても大切です。かならず全員が発言することにしています。報告したり自由に感想を述べたり、考えが整理され、確認し合い、これで良いのだと安心でき、「粘土・土」の夢が膨らみ、新たなファイトが湧いてきます。話し合いは、子どもたちが目覚めてザワザワしだしたら終了で、そう長い時間ではありませんが、この話し合いからいくつものイベントが生まれました。
たとえば、
(1)「園庭にある山を壊そう」
(2)「土を掘って、あっちの木をこっちへ動かそう」
(3)「家族みんなで粘土遊びをする」が実現したのは、「おじいちゃんとお団子をつくりたい」という園児の声を先生が伝えてくれたからです。
(4)「“ママ”をつくってママに見せたいの」という会話から、卒園展覧会で「ママの顔」を多くの家族に見てもらうことができました。
以上の(1)から(4)について、これからのコラムに書きますね。

【写真2】で右側に立っている青年はこの日見に来た学生です。「おもしろそー」と美術大学の学生たちがときどき見学に来ます。

今回のテーマ「子どもの粘土作品の撮影」はわたしの一番のこだわりです。その理由は次回に。

【写真1】
【写真2】
【写真3】
【写真4】

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ねんど博士 中川 織江

北海道出身。大学で彫塑を学び、大学院で造形心理学、 京都大学霊長類研究所でチンパンジーの粘土遊びを研究し、博士課程後期修了。
文学博士

職歴は、芹沢銈介(人間国宝)染色工房、デザイン会社勤務を経て、複数の専門学校・大学・大学院で講師、客員教授として幼児造形や心理学を担当。また、10年以上、全国教育美術展の全国審査員をつとめる。同時に、粘土遊びの魅力と大切さを専門誌に連載。

著書に、一般向けの『粘土遊びの心理学』、専門家向け『粘土造形の心理学的・行動学的研究』がある。ともに風間書房から出版。
現在、幼児の造形作品集の出版をめざして準備中。