連載#10 粘土遊びの発達 4歳ころ画期的な「ひねり出し」技法を獲得する

4歳ころ、子どもが粘土に向きあうすがたは真剣で深くなっていきます。乗って足裏で土の感触をじっと味わうように動かずにいたり、ボクシングするように粘土をなぐったり、お前は何者?と粘土に問いかけ対話しているように感じられたり、何かを引っぱりだそうとするように粘土をグイグイつかみ、ひねり、ねじったり。試行錯誤の連続で、素材を理解する力がめざましく成長します。

粘土の性質とよく似ているものに「ゴム」があります。ゴムと粘土を比べて、粘土素材の特性をよりはっきりさせましょう。

ここが共通点

「可塑性」:ゴムも粘土も、引っぱったり伸ばしたりねじったり形が自由になります。これは可塑性があるためです。

「粘着性」:ゴムや粘土を、あるていど引っぱってもちぎれないのは粘りがあるからです。これが粘着性です。輪ゴムがブツブツ切れてしまうのは古くなって粘着性が失われたためで、復活しません。粘土がボソボソになるのは水分が蒸発して粘着性がなくなったから。でも水を加えてこねると粘着性が復活するので、粘土は何回でも、半永久的に使うことができます。

どこが違う?

「固着性」:ゴムをうんと伸ばして手を離した瞬間、パチンと縮んで元に戻ってしまいます。でも粘土の場合、手を離したら、粘土が縮んでしまうことはありません。引っぱりだした粘土が、かたまりの中に戻った、引っ込んでしまったなんてありえません。つまり、粘土には形がそのまま残る、固着性の性質があります。これが大切なポイントです。

子どもたちは粘土と遊びながらついに「ひねり出し」技法を獲得します。具体的には、粘土かたまりの一部をグイとつかんで引っぱりだすと、ドアノブのようにコブ状の形になることをいいます。

この「ひねり出し」が重要なのは、可塑性、粘着性、固着性という素材のオリジナリティを理解したのちにはじめてできる、粘土でなくてはあらわれない技法と形だから他の造形ではありえません。新種の蝶や花、魚を発見したのと同じくらい画期的なできごとです。立体造形の発達上、素材を理解した指標となるこの技法がでると、思わず拍手喝采してしまいます。粘土は飛んだり咲いたり泳いだりしませんし、子ども本人も気がつきませんがまちがいなく新発見の技法ですから、これができたときわたしはすごく褒めてあげます。

この技法を獲得すると、子どもは粘土を思いのまま操り、使いこなせるようになるので、より複雑で魅力的な、生き生きとした立体作品が生まれます。その成果が作品にはっきりとあらわれてくるのは5歳ころで、わたしにとって驚きの作品の連続です。

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ねんど博士 中川 織江

北海道出身。大学で彫塑を学び、大学院で造形心理学、 京都大学霊長類研究所でチンパンジーの粘土遊びを研究し、博士課程後期修了。
文学博士

職歴は、芹沢銈介(人間国宝)染色工房、デザイン会社勤務を経て、複数の専門学校・大学・大学院で講師、客員教授として幼児造形や心理学を担当。また、10年以上、全国教育美術展の全国審査員をつとめる。同時に、粘土遊びの魅力と大切さを専門誌に連載。

著書に、一般向けの『粘土遊びの心理学』、専門家向け『粘土造形の心理学的・行動学的研究』がある。ともに風間書房から出版。
現在、幼児の造形作品集の出版をめざして準備中。