リーダーとしては残念だった、レオナルド。

2022年12月19日

AsanoShiori

前回は、ルネサンス期の芸術工房というものが組織で行われているということを確認していきました。この工房という組織の形を理解すると、組織に所属し、また組織を牽引していく現代社会人にとっても、なんとなくこの過去の事例から学べることがあるのではないかと思われるのではないでしょうか。

ここでは、実際にルネサンス三大巨匠の一人であるレオナルドダヴィンチについて組織と働き方という点から考察し、参考にできることをみていきたいと思います。

リーダーとしては残念な、レオナルド。

まずはレオナルドダヴィンチについて。                            彼の作品については、言うまでもなく。代表作は、もちろんこれですよね。

前回のルネサンス期の画家たちが工房にて分業をしていたという事実から考えてみると、じゃあモナリザも共同制作していたのかと考えてしまいますが、それは違います。

レオナルドに関しては、彼の作品についする高いこだわりからそのほとんどが単独で作成されたものであり、弟子はいたもののいわゆるこの時代の”工房”という形としての成功とは程遠いものであったと思われます。

レオナルドの弟子として有名なのが、小悪魔を意味する”サライ”との通称で知られる人物です。

レオナルドの手稿のなかで、彼は盗んだり、嘘をついたり、ものすごく欲張りで、大食いであると記されており、画家として大成したという事実もありません。また、レオナルドは若い時に同性愛者ではないかと告発されていることもあり、若さと美しさで弟子を選んだのではという憶測までもがあります。万能の天才とは言われるものの、正直組織を作ることや仕事を分業したり、後進を育てるということには長けていなかったのではと思われます…

一方で、レオナルドダヴィンチにまつわる工房の話として、今回のテーマに合わせて注目したいのは、彼の師であるヴェロッキオの工房についてです。

ヴェロッキオの名前を聞いて、作品がピンと来るひとはそう多くないと思いますが、彼は後にミケランジェロの師となるギルランダイオやラファエロの師となるペルジーノ、そしてレオナルドダヴィンチを育てた工房を経営する、ルネサンスの超重要人物なのです。

彼の修行時代に関する詳細はわかっておりませんが、金細工師としてキャリアをスタートさせ、仕事がない時期もありながら、コンクールへ応募するなどして徐々に仕事を得て、金細工に止まらず、彫刻、絵画、壁画、モザイク、象嵌と多岐にわたる技術を扱う同時代のフィレンツェにおいても特筆すべき大工房を築き上げました。これは私がアーティストであり、そして経営学部生としての想像ですが、ここには技術者としての幅広い技術への貪欲な関心と向上心、そして経営者として、文芸復興の名目の元に権力者から注文される様々なニーズへの対応という二つの意味があるのではないかと考えてしまいます。

さて、ここからは、少々私の想像と経営学の知識を織り交ぜた話にはなりますが、ヴェロッキオの工房についてさまざまな文献を読んでみて、工房がどのような環境にあったのか妄想をしてみながら、現代と重ねて考えて行けたらと思います。

最近読んだビジネス書なのですが、ビジネスブレイクスルー大学斎藤徹教授の著書「だから僕たちは、組織を変えていける」では組織を変えるリーダー像として以下の三つを挙げています。

サーバント・リーダーシップ

「学習する組織」で求められる、メンバーを支援し、コラボレーションを促し、組織が目指す成果に導くリーダー。

オーセンティック・リーダーシップ

「共感する組織」で求められる、正直に率直に信念を貫き、社員、顧客、社会と共感する関係性を作るリーダー。

シェアド・リーダーシップ

「自走する組織」で求められる、リーダーを固定せず、適材適所で、自然発生的にリーダーとフォロワーを循環させるリーダー。

これらの要素をヴェロッキオの工房は兼ね備えていたのではないかと私は感じており、残っている文献や作品の端々からその片鱗を伺ってみようと思います。

レオナルドとヴェロッキオに関して、有名なエピソードがあります。「キリストの洗礼」という作品を二人が共作した時のこと。

そこには二体の天使が描かれているのですが、レオナルドダヴィンチは師匠であるヴェロッキオが描いた右側の天使よりも遥かに上手に天使を描いているのです。その結果、ヴェロッキオは2度と絵を描くことがなかったとの言い伝えまでありますが、それは作り話であると認識されています。

しかしながら、その後ヴェロッキオは絵画に関わる仕事をレオナルドに任せたとされており、弟子を自分以上に育てる技量があり、また彼らを適材適所に配置し、リーダーシップを発揮させる機会を与えることができていたのではないかと考えています。

また、レオナルドダヴィンチは手稿にこのようなことを綴っています。

「仲間と一緒に素描する方がいい。未熟に対する羞恥心は研究の原因になるし、他人の賞賛は修行を頑張る気持ちにさせる。」

この言葉からヴェロッキオの工房がオープンな組織であり、メンバー同士が探求、考察、内省を経てフィードバックし合い、より高みを目指していく環境があったのではないかと想像が膨らみます。

加えて、ヴェロッキオの工房は多岐にわたる技術を必要とする仕事があっただけでなく、当時の最先端の技術を活用した今までにない仕事や他の工房と協業するなどの事例がありました。

ここにも弟子たちが関わっており、正解がない状況や様々な人と協力しなかればいけない場面を目の当たりにし、そんな時代の変化とダイバーシティの中で知識と経験を共有していったのではないかと思います。

これらは、多分に私の想像を含むものではありますが、実際ルネサンス期の画家、彫刻家たちの姿から学ぶことは非常に多くあります。

当時の工房内の人々の関係性、雰囲気までを感じることはできませんが、彼らの工房で今にも残る作品を多数作ることができていたということが、良い仕事ができる環境があったことの一つの証左ではないかと思っています。私たち今行っている仕事は、500年後にも残っていますか?ちょっとそんな考え方をしてみると、今の仕事、組織との向き合い方が変わりそうです。

また、時代としてもペストの経験、メディチ家の成長と衰退、教会権威、封建主義からの人文的価値観への転換といった点で、コロナを経験し、グローバル化、生き方働き方の転換を迎えている日本について予感するようなところもあるのではないかと思います。

【参考・引用文献】

「だから僕たちは、組織を変えていける」斎藤徹著                        ルネサンス三巨匠の物語: 万能・巨人・天才の軌跡  池上英洋著                 ルネサンスの芸術家工房 ブルース・コール著                         芸術家と工房組織の経営 ―日本中世とイタリアルネサンス期の比較から― 文化講演         東京工業大学 髙 岸   輝・東京工業大学 江 川   緑                       ルネサンス美術解読図鑑 リチャード ステンプ著